赤黄色の金木犀
風に運ばれた甘い匂いで、昨日の帰りに初めて知った。
会社の入り口と、その近隣には金木犀が植えられているらしい。
そうか、季節は本格的に秋なんだな。
金木犀を話題にすること自体、老けてきた証拠なのだとは思うが、まぁいいじゃない。
「宮崎さんはどこで老後を過ごしたいですか?」
今日の夕方ぐらい。会社の先輩である宮崎さんに、こんな老けた質問をしてみた。
「実家の藤沢かなぁ……いや、鎌倉がいい。海が近いし」
「ああ、なるほど。海を見ながら楽しい余生を過ごすってのもオツですねぇ」
すると、「いや、いいよオレ、50ぐらいで死にたいんだ」
人生ホントウに楽しくなるのはそっからだと思うのに、若くしてお亡くなりになるとは残念だ。
短い寿命を楽しむというのもまた人生か。花と一緒だな。昨日知った金木犀の話題を出すと、「キンモクセイの匂いってのがオレ、イマイチわからないんですよー」と返されて、弱った。
それは人生ちょっと損してるな。と僕はそういう風に思った。
金木犀の匂いを知ったなら、もっと長生きしたくなるはずだ。
とはいえ、長生きしてもらうためにトイレの芳香剤を勧めるというのもなんだか気色が悪い。
会社の入り口だけでなく、その隣の民家にはもっとたくさんの金木犀が植えられているという事を宮崎さんに教えた。帰りに意識しながら民家の横を通れば一発でソレとわかるはずだ。
「じゃあ帰りにそこを通って匂いがしたらそれがキンモクセイの香りなのね?」
午後6時になるとそう云い残して、宮崎さんは先にタイムカードを打刻して帰っていった。
金木犀の香りを知らなかった事には驚いたが、良い事を教えてあげた気分で僕は嬉しい。
その数分後には、僕もタイムカードを打刻し、エレベーターの中で宮崎さんの顔を想像した。
その数分前には、民家の横で金木犀の甘い香りを初めて知ったであろう宮崎さんの顔を。
時刻は午後6時を少し過ぎたぐらい。
さっき宮崎さんに教えた通りに、自分も意識しながら金木犀が咲く民家の横を通る。
民家から漂ってきたのは、ダシの効いた煮物の香りだった。


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