天井裏から愛を込めて
歴史的瞬間に立ち会う事が出来てしまった。
会場はSHIBUYA-AX。
イカ天onWEB2008ファイナリストの全グループが演奏を終え、300組以上の頂点であるグランプリを発表すべく、審査員長の後藤次利氏がステージ中央でマイクを握り、もったいぶる。
次に彼が言葉を発した瞬間、僕はこれ以上無いぐらいの大声を上げて叫んだ。
「グランプリアーティストは………アタマズ!!」
彼らの優勝を信じて疑わなかったくせに、その瞬間まるで信じられなかった。
それほど親しくなかったにも関わらず、atamazの応援に駆けつけたchicken head makerのメンバーと抱き合い歓喜に咽び、持てる精一杯の声を振り絞って叫んだ、叫んだ、叫んだ。
atamazは今この瞬間、全国から応募した凡そ300組の頂点に立ってしまったのである。
審査員のひとりである、メガデスのマーティ・フリードマンが流暢な日本語でatamazの演奏とアレンジ力を絶賛。続いて後藤次利氏もピアノのアレンジを絶賛、もうひとりの審査員である千秋は、可愛かった。ものすごく可愛かった。現在独身。僕にもチャンスはあるだろうか?
そして優勝アーティストだけに権利を与えられる二度目の演奏が始まる。
SHIBUYA-AXという会場で堂々たる彼らの演奏に、不覚にも涙が出そうになった。
イベント終了後は大勢の報道陣に囲まれたらしく、入り口でCDを無料配布していたブースはもぬけの殻だったので彼らに代わってCDの配布を手伝った。グランプリが決まった直後だけあって、atamazのCDを求める人がもの凄い勢いで殺到する。出場していた別のバンドの追っかけの女の子なんかも「CDください」って近寄ってくる。それが自分の事のように嬉しい。
搬入口から声をかけに行くと、優勝賞金である100万円を手にした彼らから、その半分の50万円を手渡されてしまった。正直云って僕はたまたま彼らに出会い、PVを撮って、たまたま知ったイカ天に応募しただけだ。グランプリを獲得したのは彼らの実力であり、僕はそんなに関係ないはずなのだが、メンバー同士で話し合ったのか、賞金の半分を貰ってしまったのである。
事前にそういった約束をしていたわけではなかったのだが、然も当たり前のようにくれた。
ボーカルの西さんが笑っている目の奥で、「この金で良い映画撮りなよ」と云っている気がした。初めて目の当たりにした金額のぶ厚さは相当なプレッシャーではあるものの、僕が彼らに期待している分、彼らも僕に対して期待してくれているのかもしれないという風に解釈した。
その後は応援に来てくれていた人々を含めて幡ヶ谷での打ち上げ。既に何人かは目を赤く腫らしている。そのキッカケのほんの一部に、自分が居させてもらえているという事がとても嬉しかった。「PVすごく良かったよ!」そう云ってくれる人もたくさんいた。本気で嬉しかった。
終電が無くなる時刻まで余裕で飲み続け、現金50万円という大金を持った僕は何の躊躇も無しにタクシーを拾うと、セレブリティ気取りの僕に西さんが遠くからこんなふうに叫んだ。
「まずはお前借金返せよ!」
ああ…そうだった。
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